わたくしは
あのね、
…そう、母に呼びかけることができない子供であった。
加えてわたくしは
あのね、
…そう、夫に語りかけることができない妻である。
先月、
友達の息子・陽ちゃんの絵がギャラリーで展示されたのが嬉しくて、
「あのねママ、陽ちゃんの絵が沢山の人に観て貰えたの」、思わず母にそう語りかけてしまってから後悔した。
母は溜め息をついて「あんたの息子は絵を描かないの?私も孫自慢がしてみたいわ」と、半べそになってしまったのだ。
不登校の孫息子を持って以来4年。
悔しがり、情けないと泣きながら我が母は、おばあちゃんとして出来ることを模索して心を寄せてくれてはいるのだが、ヨソの孫の成長に対して羨ましい気持ちが勝るのだ。
先週、
知人の息子がインターハイ出場を決めた。
コロナという得体の知れない病の蔓延に脅かされ引きずり下ろされ、時に閉じ込められた競技生活を経て、やっと安全に手に入れた闘いの舞台!
赴任先から帰宅した夫にわたくしは
「あのね…!」と、思わずこの話題を語りかけてしまってからハタと気づいて口をつぐんだ。
息子の不登校以来、いや、息子が高校を退学して帰還して以来、この手の話題が苦手だ。
辞めたはずのタバコを手にして逃れるように散歩へ出て行ってしまった夫。
街灯が照らす背中が小さくみえた。
わたくしにとて息子の不登校は悲しかった。
わたくしにとっても息子の高校退学は人生最大級の絶望感を引き寄せた。
友達の居ない17歳男子の将来は、群青色に思える。
しかし、それを選ぶしかない子も居り、そうしながら18歳で成人となっていくのがウチの息子のリアルだ。
ヨソの息子の成長は眩しくて羨ましいが、わたくしの人生には重ならない。凄い人の人生に触れて凄いなーと感じる正しい反応を、いつのまにか取り戻すことができたんだなー、と思う。
さて、では…
わたくしが親として次に備えるものはなんなのか?
息子の年金、健康保健を捻出できるよう労働し続けていくことか…
いや、その前に
母と夫に「あのね、」と息子の話題を語りかけていこう…
と…思う。