京浜急行を描く彼に
文具店で赤系統の色鉛筆を18本選び
リボンをかけてもらった。
赤にもいろいろある。
京浜急行の色、そのものズバリというのは叶わなかったが、今、彼が好んでいるのは【餡子色に寄る赤】という情報を頼りに吟味した。
文具店を出ると外は突風が吹き荒れており、雨の匂いが充満していた。
車のイグニションにキーを差し込んだ途端に大粒の雨がフロントガラスに纏わりついてきた。
オマケに雷鳴も轟いている。
近頃、調子が悪いカーナビは何故か現在地を海上と示しているが構わない。
道案内など不用だ。
どしゃ降りの環状2号線は、まるでタイムマシーンのトンネルのなかのようだったが、高揚した感覚がそれさえもたまらなく…
ちむどんどん、ソレがピッタリな感覚だった。
山谷の交差点を曲がると緩やかなカーブが続く。
苦しくて嬉しくて、、、
この道を
相反するいろんな思いで行き来してきた15年〜20年のことが巡り、息苦しくなってきた。
仕事、
独身から結婚、
出産、
子供の成長。
何かにつけて報告しあってきた友が住む地へ!
今日の目的は友の息子が描いた絵を観ることだ。
もうすぐ弘明寺駅、という辺りでコインパーキングに車をおさめ、展示会が行われているアトリエを目指して歩く…。
…はて、
アトリエの名前は何だっけ?
写メした新聞記事を覗いてみる。
Goozen、とある。
友に、来訪を伝えることなくココまで来てしまったのだが、とLINEを送ると、
運良く友も、これから向かうところだ、と返信が来た。ぐうぜん!
安堵して携帯から顔を上げるとGoozenは目の前だった。まさに、ぐうぜん!
白い壁一面を埋め尽くす数の京浜急行の絵の数々。
筆圧で赤が照り返している箇所さえある。
むせかえるほどの強さを感じ呼吸が浅くなるほど。
そこへ友がやって来た。
言葉が出ない。なんだか、言葉が出てこなかった。
ふと、この友が、
かつて賞を取った散文詩が甦った。
【タイムマシーンに乗って 小さな赤ん坊を抱いて泣いていた あの頃の自分に「ナイスファイト!」と言ってあげたい】
アトリエを訪れる人はあとをたたない。
友に色鉛筆の束を押しつけて「またね!」と外に出た。
雨はすっかり上がり、青空さえ垣間見える。
友の息子はの名は陽光、という。
今月18歳の誕生日を迎える。