「逃げ癖は、正さなければならない」。
「だから高校退学は200パーセントあり得ない」。
夫は元不登校息子に、そう言い渡した。
父ちゃんに対するプレゼンを失敗した息子は夏休み明けに寮に戻る道すがら
行方をくらまし、迷走し、捕獲され、自宅に連れ戻された。
以来、いまだに夏休みを継続中である。
自宅近隣の全日制高校への転入は、ルートが無かった。
通信制高校への転入は、本人が魅力を感じていないのと、夫が許可しない。
わたくしとて芸能人でもなく、高校生実業家でもなくプロアスリートでもない息子が全日制高校を辞めて通信制高校で学ぶ道を選ぶ意味が見いだせないでいる。
しかし、このまま夏休みを継続したとて
息子が在籍する高校へ戻るとも思えない。
在籍高校の何がイヤなの?
週末、帰宅していた夫と3人で囲む食卓で息子に聞いてみた。
学校指定の上履きと運動靴が足に合わず、靴の中で擦れて四六時中痛い
だの
門限が厳しすぎて学校と寮以外の場所に行けない
だの
このままの進度では理科の教育課程が修了しないまま卒業してしまいそう
だの
食事が満たされない、もう少し器に盛ろうかと思うけど、
他の子のことを考えるとそれはできかねる、
だのとポツリぽつりとつぶやくように話し出す息子の言葉に
わたくしはうなずき、夫は反論する。
唯一、夫が間髪入れず咳き込みながら同意したのは
飯はさ、いっそ母ちゃんの飯の方が100倍うまい。
ブッ!がほがほっ・・・そりゃよほどのことだな💦気の毒に。
そう、真顔で言っている夫にツッコミを入れる隙は無かった💦
・・・夏野菜のトマトシチュー。
・・・ゴーヤチャンプルー。
・・・明日葉のおひたし。
庭で採れた野菜とご近所で頂いた野菜たちとのマリアージュ。
昨日は何を作ったっけっか?
・・・空心菜のニンニク炒め。
・・・ジャガイモと長ネギのクリームグラタン。
父ちゃんは、かれこれ20年、母ちゃんの飯だ。
イヤなら自分で鍋を振るまでだ。
・・・確かに。
昼飯に夫の作ったニラ玉なぞ、逸品であった。
しかし、これでは会話の乗っ取りだっ!
二の句が継げなくなった息子とわたくしを食卓に残して
夫はソファにゴロリと横になった・・・。
今日も午前中から通信制高校の電話でのリサーチ、
ZOOMでの説明会参加、
午後は直接学校説明会へと出向き都会を歩いた。
途中雨に降られ濡れた状態で乗車した電車で見た夢見が悪く
「うわーっ!」っと、声をあげて座席から立ち上がってしまった!!
・・・雨上がりのハイキングコースを息子と歩くわたくし。
道はぬかるんでおり、落石も処々にみられる。目的地はまだ先だがこの天気。
中間地点の池に到達したことで今日は諦めて戻ろうと行動を始めたが、
息子はアッという間に池のあちら側に走って行ってしまった・・・。
と、突然ぬかるんだ淵が息子を呑み込む。
土砂が大量に流れ込み、濁流と化した池が流れを作り息子を押し流していく。
こりゃ、一人じゃ助けられないと思ったわたくしは国土交通省に電話して
土砂崩れ地点を告げる!地図を広げ、池につながる河川の消防に電話しまくる!
たすけて!たすけて!わたくしでは息子を助けられない!
滝口に飲まれていく息子の叫びを聞いた場面で夢を終えた・・・。
夫よ!わたくしの見た夢と同様の夢を見るがいい!
転送してやるっ!!!
そう念じてみたが残念。呪いが足らず、
やがて規則正しい夫の寝息が部屋中に響き始めた。
今朝、4時。
単身赴任先に戻る夫に、どうしてもこの夢の話をしてやろうとしたのだが
聞きたくもない話は振るな、と制止された。
寝床から起きてきた息子がスッっと足を伸ばし、わたくしの足の甲に自分の生暖かい足裏を乗せてきた。
鎹ではなく、楔だな息子。