「いや、言った。お前はたしかに、そう言った」
夜中に電話をよこした父と口論になった。
どんな時間でも気付いた事があったら起こして知らせろ、と。わたくしが言ったから電話をかけた、と言うのだ。
何が起きたか?と、車で1時間の距離を急いだ身としては安堵よりも苛立ちが勝ったが、そんな夜中に父がわたくしに言いたかった事とは?
果たして…
「ベッドの向こう側にヘアブラシと耳掻きを落とした。取ってくれ」と。
…言ったわ。
確かにわたくしは、父に、そう言った。何でも言え、と。
だけどサ…。
ところで
わたくしたちファミリーには鉄の掟がある。
やっていない事を「やった」とは言わない。
聞いていない事を「聞いた」事としてすり抜けしない。
不当な扱いには真っ向から声をあげる。
自分の人生を守るために!
生きていく上にはあらゆる落とし穴がある。
穴だらけだ。
わたくしの叔父は落とされた穴から這い上がるために
36年の闘いを続けている。
今日、叔父の3回目の再審請求にあたり、小さな記者会見が行われるという。
もはや、わたくしは何の力にもなれないのだが、叔父の止まってしまったままの時間が動きだしますように、と祈るばかりだ。
ついでに父の困った物言いが、多少の可愛げのあるものになりますように…。