蓮の花を見に行こう。
幼い頃、父に手を引かれて鎌倉鶴岡八幡宮の蓮池に行った日のことを思い出した。
早朝の蓮池は静まり返っており、人もまばら。
ミシシッピーアカミミガメの親子が見え隠れする池のほとりに腰を下ろし
スケッチブックを広げてクレヨンで蓮を描いたわたくし。
近くで見る花は、見上げるばかりに背が高くて中心部が見えない。
花の付け根から斜めに仰ぎ見るピンクは、
チューリップとさして変わらないように見えた。
花弁の重なりの境界を黒いクレヨンで描いてみたが、なんだかそれも違うと子供心に感じ、ピンクのクレヨンで強く塗りつぶしたのを覚えている。
父は子育てに一切口を出さない人であったと母に聞く。
わたくしのやることにダメ出しをするような人ではなかった父だが、
せっかく連れて来た早朝の蓮池でスケッチブックに描かれた巨大チューリップには苦笑していた。
ただ一度、
わたくしが大学受験に失敗し「浪人させてください」と父に願い出た際に父は、
浪人に時間を費やすよりも、このまま与えられた道を歩めよ、と言った。
才能あふれる後進に時間とチャンスをストックしておきたいから、と。
その際、あのピンクの巨大チューリップのクレヨン画の思い出話を引き合いに出してきて・・・父と膝を叩きながら大笑いしたことを覚えている。
その後、後進であるところの我が妹は浪人したものの見事に美大に合格し、
ありがたいことに今では絵で生活を賄えるようになっている・・・。
蓮の花を見に行こうよ。
今日、旧友からそんな風流な誘いを受け、雨の中、出かけて行った。
現地に着くと幸い雨は上がっており、のんびりと花を観賞することができた。
花弁の繊細なグラデーション
ほんのりと大人の気配が感じられる香気成分
ハラリと落ちたひとひらの花弁の形が、レンゲの由来であろうこと
もちろん蓮はチューリップとは明らかに形が違うこと
・・・などなど発見も多くあった。
「ここんとこにお釈迦様乗るわけ?」
「だーだー、やだ!ベタベタしとるっ」
「この豆みたいなとこ食べるんだよね」
「におう?におうん?」
「よくよく見ると花ってエロいよねぇ。」
「ああ。誘われとるっ」
・・・と、まあ、花の鑑賞をしながらよくもこんなにと
我が事ながら不思議なほどのハイテンションでしゃべり
涙が出てくるほど笑ってきた。
大人の遠足。
花時計の前で写真を撮ってくればよかった。
地獄からわたくしは、蓮の花をこうやって下から見上げることになるのね!