不登校息子+親介護+単身赴任夫=思秋期なあたくし。

怒涛のようにやってきた不登校と介護と夫の単身赴任の荒波を、更年期のあたくしがサーフィンする日々の記録です。

一本のガランスをつくせよ!・・・by槐多

手袋は不要!上着も着ない!

・・・頑固な息子は受験の日の朝もそのスタイルを貫いた。

 

その代わり・・・所属中学の校章がプリントされた指定バッグをズルズルとトランクの底から引きずり出し、肩から斜め掛けにした。

深夜バスに乗り13時間かけてやってきた希望校に、所属中学の基準スタイルを整えて挑む生真面目さが今さら可笑しくて、思わず吹き出してしまった。

もちろん靴下も中学で奨励する白ソックス!

昨年の生徒会で靴と靴下の色は自由に着用することができると校則が改変されたらしいが、

不登校を貫いた息子には伝達されていない。

 

「いってらっしゃい」と言うキッカケが掴めず、マイナスの気温の中を息子の後をついて歩く。

「ついてくんなよ」とばかりに時折ふり返り、眼光鋭く追い返そうとする息子との距離を開いていく。

「おはようございます」、すれ違う町の人とわたくしが挨拶を交わしている隙に、

息子が一礼して校門に入っていった・・・。

 

この運命の日の待ち時間を、わたくしは町の美術館で過ごすことにした。

絵のことは、はっきり言ってよくわからない💦のだが、嫌いではないのだ。

小雪が舞い始める中、向かった美術館は

背後に山を従えて、水墨画のように美しかった。

 

一枚の裸婦画が目に留まり、吸い寄せられるように近づいた。

茜色の肌が溌剌とした曲線を描いている。

日本の赤だと思った。

金赤。朱塗りの朱。

 

Murayama Kaita

・・・か。

 

大きな窓枠の外には小雪が舞う。

軒天の規則的な並びの間にスルリと深く入り込み、同じ弧は二つとしてなく、

次々とやってくる。

 

学芸員さんに2つ3つ質問をし、納得してから美術館を後にした。

 

受験を終えた息子との待ち合わせ場所は町立図書館。

中に入って待てばよいものを雪の中、薄着の息子が白い息を吐きながら待っていた。

「どうだったかな?」

レンタカーに黙って乗り込む息子に声を掛けたが返事がない。

血走った目と上気した頬で曇天からいくらでも落ちてくる雪を見上げている。

 

・・・どうやら面接で浴びせられた質問が不登校に関するものに寄ったらしい。

【まず最初に。現在中学に通えていないようですが、朝、起床ができないのですか?】

そう聞かれた途端に、風呂の栓を抜かれたように準備した言葉が抜けてしまったという。

そんなこともあるだろう。

君は不登校なのだ。

未確認物体を初めて目にした人は、まずその生態を知りたいと思うじゃないか。

きっと先生も君の生態を確かめておきたかったに違いないよ・・・

だけど不登校の君が、やりたいことを貫き、退路を断ってここまで受験しに来た。

結果はどうであれ、ひとつ完結じゃないか?あとは高校の判断に任せよう・・・

 

少々苦いものをわたくしも感じながら、そう声掛けした。

そして先ほど美術館で書き留めた村山槐多の詩を息子のLINEに転送した。

 

ためらふな

恥じるな まっすぐにゆけ

汝のガランスのチューブをとつて

汝のパレットに直角に突き出し

まつすぐにしぼれ

そのガランスをまつすぐに塗れ

生のみに活々と塗れ

一本のガランスをつくせよ

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 トイレで出会った砥部焼に記された一文。ひとひらも散っていない咲きたての梅と共に