高く高く舞い上がったタロウの行方を呆然と見つめるしかなかった。
人は、なぜ飛べないのだろう?
セキセイインコ。三代目(ホントは♀だけど)タロウは
羽ばたきの音だけを耳に残してわたくしたち親子の元を去ってしまった。
雑木の向こうは、ひろい広い空間が扇状に広がり空へつながっている。
あれほど仲良く暮らしてきたはずなのに
呼びかけに応じもせず黙々と小さな羽ばたきを繰り返して
そちらの方角へ消えたタロウ。
息子が走る。間に合うまい・・・。
数日前、帰省を終えた息子が帰還の途中に行方不明になった。
それを知らせた夫は仕事先から夜通し車を走らせて
息子の潜伏先に向かった。
当初わたくしは、息子の行動を信じており、危機を感じていなかった。
しかし、夫は息子の最悪の事態を予感し、居ても立っても居られなかったのだ。
「警察に連絡したのか?」
「この距離だ、何かあったら間に合わないかもしれない」と、
一晩中アクセルを踏み続けて息子の元へ近づいていったのだ。
800キロ。
羽ばたいて羽ばたいて自由を求め、姿をくらまそうとしていた息子は
夫の執念で捕獲され、連れ戻された。
人は、飛べない。
自由を得たセキセイインコは天井無しの空をどこまで飛べるだろう。
タロウに対しての正常性バイアスは発動せず、
やがてイカロスの翼のように黄色い羽根が動かなくなるまで太陽に近づいていったであろう。。。そしてそして、そのあとは。。。。と悪いイメージしか浮かんでこない。
「タロウもみつけてよっ」と、ヒステリックに夫に電話している自分の滑稽さを俯瞰で見て笑っている自分が見える。飛べないくせにっ!!
ダメと知りながら間に合わないと分かりながら
タロウを思い、それでも探している・・・。
ごめんねタロウ。