「千円お預かりします・・・」
レジ前で奮闘するバイト君。響くエラー音。
・・・わたくしは急いでいないよ、ゆっくりおやり。あうっ!またエラーがっ!
うつむくバイト君は高校生だろうか。
いや、県は高校生バイトを奨励していないから、大学生かもしれない。
先ほど別れてきた息子よりも華奢な肩をしている。
・・・オバちゃん、お水飲んでこよかねっ!と、
気を利かせたつもりでその場を離れた。
バイト君の後ろに店主とおぼしきミドルがそっと寄り添った。
水を持ってレジへ戻るとバイト君が不器用にそれでも丁寧にトレーにお釣りを並べているところだった。
「できたらお呼びします」
真っ直ぐにこちらを見て呼びかけられた。
きっと、良いバイト君として育つことであろうね!
こういう子が伸びしろがある、というのだろう。
・・・ありがとう、よろしくねっ💦
こうして親の手の届かないところで子供は格段に成長していく。
ウチの息子も、このままこの地で成長を続けて欲しいのだが・・・。
「冷やしじゃこ天お待たせしました」
やがてカウンターから声が掛かり、わたくしは半日ぶりの食事を前にした。
18時。
昨夜、仕事上がりにバスに乗り、息子の通う学校の三者面談のために県を跨いで来た。
コロナ感染拡大地域からの大移動であることの後ろめたさ、
面談の内容のエグみが食欲を奪い、空腹を感じなかったのだ。
すだちの香りが爽やか。
ジャコ天の旨味が濃厚。
澄んだ汁が栄養満点であることを伝えてくれる。
うどんのコシが格別だ。一杯でしっかり満たされる。
やがて汁に浮かんだ青ネギの一切れさえ残さずに食べ終えた。
この数か月で5回目の地。
旅行ならばそんな回数を同じ場所へ通わないだろう。
とすれば、既にこの地とわたくしは、息子が結んだ縁でつながっている。
親としてはもとより、個人としてもまだ切りたくない、切られたくない縁。
しかし息子は縁の先につながる人間関係が煩わしく、独りになりたいと主張するのだ。
結んだ縁。既にわたくしが預かり知らないところで息子は人と環境に恵まれ
時間を進めているのにも関わらず、すべてを手放そうとしている。
礼は尽くさなければならない。
手放した場所には戻れない。
しかし、あとは自分で決めること・・・そう伝えて息子と別れてきた。
店の壁紙メニューには、冷やしは季節ものだと書いてある。
もう二度と食べられないかもしれない。